ドコモ5Gオープンパートナープログラム

2018年の5Gは「夜明け前」
インフラとサービスが
同時進行で普及へ

株式会社 企(くわだて)
代表取締役

クロサカタツヤ氏

グローバルの5Gの動向を見る上で、毎年2月に開催されるMWC(Mobile World Congress) *1は、定点観測として最適な場ではないかと思っています。クロサカさんは毎年MWCに参加されていますが、ここ数年の流れから2018年における5Gの成熟度をどのようにみられていますか。

MWCは、基本的にベンダーによる通信機器の売り込みの場所です。5Gに限らず、商品が成熟していないと、買い手の購買意欲が高まらないということになりますが、数年前に比べると5Gへの関心はだいぶ高まってきて、2018年はこれから盛り上がるまさに夜明け前かなと思います。実証実験など具体的な姿が見え始めたということで、雲の隙間から明かりが見えてきた段階でしょう。

(MWC会場の様子 撮影:クロサカタツヤ氏)

*1 世界最大のモバイル業界のイベント。通信インフラ向けの機器や端末、サービスが大量展示されるほか、業界関係者によるセッションが開催される。URLは、 https://www.mobileworldcongress.com/

「雲の隙間の明かり」の例を具体的に教えてもらえますか。

まず、スイスコム(Swisscom)による鉄道沿線開発が挙げられます*2。鉄道などの交通インフラ整備と新しい通信技術を合わせて提供する方法は、通信インフラの世界では昔からあったものです。日本でも携帯電話は自動車電話から発展したため、高速道路沿いに広がってきました。ですからスイスコムのやり方は伝統的アプローチであると同時に、非常にリアリティがあるものとして受け止められたのです。5Gがいよいよ現実味を帯びてきたな、と感じました。

(SwisscomのCMOによるプレゼン 撮影:クロサカタツヤ氏)

もう1つ注目したいのが、英国・ボーダフォン(Vodafone)のイタリア・ミラノ市におけるスマートシティの事例です*3。ボーダフォンがオペレーター、ノキアがベンダーとなって提供する枠組みですが、これも非常に面白い取り組みだと思います。この事例では街の5G化を進めていくにあたり、5Gインフラをオペレーターやベンダーの資産としてだけでなく、街の公共資産としても捉えようとしています。

結局のところ、5Gの普及には「誰がいつ、どれぐらい設備投資をするのか?」といった壁が立ちはだかります。それに対する1つの考え方として提示されていたのがボーダフォンのプランです。

*2 2018年のMWCにおいて、スウェーデンのエリクソン(Ericsson)と共同でデモンストレーションしたもの。特定の業界向けのソリューションに、5Gの特徴の1つであるネットワークスライシング(ネットワーク中に置かれるコンピューティング資源を仮想化し、用途に応じて構成を動的に変えられるという考え方)が適用できることを示した。(エリクソンの発表原文

*3 2017年12月にイタリア北部の都市へノキアと共同で試験導入したことを、MWC2018で発表した。用途は、スマートヘルスケア、緊急サービス、交通管理、観光を想定する。(ノキアの発表原文

これら2つの例からは、インフラとサービスを同時進行で浸透させようとする意図がうかがえます。

そうですね。もともと5G自体が、アプリケーションやサービスをあらかじめ意識して実装しようとの傾向が強いものだと感じています。そこに拍車をかけるものとしてIoT(インターネット・オブ・シングス)があります。すなわち街中がコネクテッドになっていく中で、それを実現するためにどんな種類のセンサー端末を作り、どんな場所に設置していけばいいのか。5GはIoTの具体的なソリューションの橋渡しをする技術だと思います。

俗に言う「キラーアプリ」*4は見えていますか?

今回のMWCで海外の関係者の皆さんに「最初に何が来ますか?」とヒアリングしたところ、「動画とコネクテッドカー」と話してくれました。そこは日本でも認識されているところなので(笑)、「別のものはないですか」と聞いたところ、スマートシティに代表される社会インフラが大きな需要になるのではないかと答えてくれました。

なぜなら5Gの基地局を受け入れる街の立場からすると、街中に“生活を豊かにするため”のセンサーやコントローラーなどを配置できる可能性が出てくるからです。基地局には確実に電源とネットワークが来ていますから、そこに情報端末を置いてみたり、基地局をハブにして街中のセンサーにつながったり。街中に基地局を設置する理由や必然性がある、という観点も含めて、世界中のオペレーターやベンダーがスマートシティに注目しているのです。

この価値を事業者だけではなく、街で暮らす人びとがどれぐらい理解し、享受できるのか。そこがアプリケーションの価値につながると思います。そこに暮らす人びとが「これはいいね!」と思えるのであれば、確実に浸透するはずです。

*4 「このアプリがあるから、それを利用するために必要なプラットフォームを手に入れたい」と思わせるアプリケーションのこと。ゲーム機における人気ゲーム・タイトル、DVDプレーヤーにおける人気映画など。

ネットワークの展開は需要とセットという面も強いですよね。現段階で予想できる、「5Gで稼ぐビジネスモデル」にはどのようなものがありますか。

例えばネットワークスライシングなどが代表的な例でしょう。5Gに限らず、ネットワークスライシングの核である仮想化技術はITの大きなトレンドとして進んでおり、仮想化による新世代のモバイルインフラは非常に期待されています。柔軟にネットワーク構成を組み替えながらも、そのネットワークがマネージドであることに大きな価値があるからです。

コネクテッドカーとリテールテックの進化に期待

(撮影:マエハラタケシ氏)

各国・各地域の5Gの展開ペースはどうでしょうか。

韓国は非常に進んでいる国の1つです。平昌冬季五輪の直後にMWC2018が開催されたこともあり、冬季五輪の事例も非常に多く取り上げられていました*5。高速・低遅延な環境下でのAR/VRの視聴やスタジアムソリューションといったユースケースです。韓国は国が一丸となり、“オールコリア”で5Gを盛り上げていく印象を受けました。

(KTの上級副社長による平昌五輪の5Gデモに関するプレゼン 撮影:クロサカタツヤ氏)

厳密には、まだ標準化が完成していない状況で5Gを名乗るのかという疑問はありますが、実際のフィールドで実験することについてはポジティブに捉えたいですね。

米国もルーラル(地方)地域でのカッパーケーブルの置き換えとして5Gを導入していく動きがありますが、実は韓国と米国の動きは強く結びついています。韓国は標準化を待たずにどんどん実験を行っている。そして標準化が定まった瞬間からスタートダッシュをかけるつもりなのでしょう。同じく米国も標準化を待たずに需要を創造し始めています。恐らく韓国が“オールコリア”を強く打ち出しているのは、米国市場を強く意識しているはずです。

こうした早めの取り組みを象徴するのが、中国・ファーウェイ(Huawei Technologies)が提唱する「4.5G」というキーワードです*6。いきなりすべてを大規模にマイグレーション(移行)するのではなく、ネットワークに関してはあらかじめ準備を進めながら5G本番時にはソフトウエアでアップデートし、基地局やアンテナといったハードウエア部分は設備投資計画に応じて展開する、という考え方です。

*5 五輪会場の一部に観客向けの5G体験コーナーが設けられた。多数のカメラで撮影した画像を合成して好きなアングルで見られるようにする「タイムスライス」、GPS情報と高精細画像を組み合わせることで特定の選手を追跡視聴する「オムニビュー」など、新しい視聴スタイルを提案した。28GHz帯のミリ波が使われたとされる。(平昌五輪における5Gデモに関する参照記事

*6 2018年4月下旬に開催された産業見本市「Hannover Messe 2018」では、ファーウェイなどが5Gを活用した製造業向けの展示を行った。サイバー空間に現実世界を再現する「デジタルツイン」や、人とロボットとの協働に注目が集まった。(Hannover Messe 2018におけるファーウェイの出展に関する関連記事

なるほど。ワイヤレスネットワークでは、規格上の速度と実際の速度との乖離が指摘されますが、5Gに関してはいかがでしょうか。

5Gだけではなく、ワイヤレステクノロジー全般が有線に比較して格段に不安定なものです。周囲の環境や接続人数などによって不確実な部分が必ず出てきます。ただ、5Gの基地局が大都市を中心にマイクロセル(スモールセル)になればなるほど、ワイヤレスと言いながらほぼ有線に近い状態になります。つまり、最後のエンドノード付近の数メートルだけがワイヤレスで、それ以外は有線になる。このようにバックボーンを含む「系」全体で見たときに、ほぼ有線通信としてのスペックが実現できるのではないかと見られています。

今後、国内外で注目すべき動きがあれば教えてください。

やはりコネクテッドカーは大きいでしょう。各自動車会社はコネクテッドカーの実証実験を開始していますが、来るべき自動運転の実現に向けたブリッジとして、クルマがインテリジェント化して情報を収集する流れが加速しています。

一説によると、クルマ1台を走らせて24時間で取得できるデータは2Tバイトだそうです。それをすぐにクラウドにアップできるわけはないですし、仮にアップしてもデータの分析に長時間かかっていたらあまり意味がありません。データを処理してAIで分析し、学習結果を再びクルマにフィードバックする――この一連の流れを考えると、莫大な量のデータを瞬時にやり取りする5Gのようなネットワークが不可欠になってきます。

いずれにしろこれは、スマホでトラフィックが逼迫するといった例とは比べ物にならない桁違いの体験です。5G時代に向け、こうしたニーズにどう向き合っていくかは極めて重要なテーマになります。

もう1つ、リテールテックの可能性は大きいと感じています。AIスーパーの「Amazon Go」などの例が出てきているように、我々に身近な5G活用はユーザー体験を直接変えるきっかけになります。これからいろんな可能性を秘めた提案やトライアルが進んでいくはずです。

店がインテリジェント化するには棚や商品、あるいはユーザーそのものが今以上にコネクテッドになっていく必要があります。もちろんプライバシーとの兼ね合いをどうするかといった課題は常に意識すべきですが、きめ細かくユーザーの動態を分析することで、便益を最適に還元できます。そのとき、ユーザーがあらゆる意味で安心してサービスを受けられるために、マネージドサービスを実現していくインフラとしての5Gが、存在感を発揮していくのではないでしょうか。

※「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」「docomo 5G DX AWARDS」「ドコモ5Gオープンラボ」「ドコモオープンイノベーションクラウド」は、NTTコミュニケーションズ株式会社の登録商標です。
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