ドコモ5Gオープンパートナープログラム

ロボット・AIで農業革新!
「農村部にこそ5G」を願う

私たちの食卓を支える日本の農業は、どこに向かおうとしていると思われますか?それは「データ分析に基づいた生産性の高い産業」。実現のカギになるのが、5Gに代表される強力な情報通信インフラや、「賢い農機」を実現するAI(人工知能)、高精度の測位を可能にする準天頂衛星などです。
現在、農業分野でどのようにICTが活用され、そして5Gの導入で何がどう変わるのでしょう。内閣府主導の産業創造プログラムで要職を務めるなど、「農業×ICT」の第一人者である北海道大学の野口教授にうかがいました。

北海道大学 大学院農学研究院
副研究院長・教授
基盤研究部門
生物環境工学分野

野口伸氏

日本の農業が抱える課題を教えていただけますか。

農業従事者の人口は減少の一途をたどっています。5年前と比べて15%減、過去20年間でおよそ半分に減りました。加えて高齢化も深刻です。さらに離農が加速しています。結果として増加しているのが大規模農家。経営耕地規模が100ヘクタールを超える農家はこの5年間で30%も増えました*1

これからの日本の農業がどのような方向に進むべきか。私は、内閣府が主導するSIP(エスアイピー、戦略的イノベーション創造プログラム)で次世代農林水産業創造技術担当として、農業分野の課題解決に向けた科学技術の活用を考えています。

*1 こうした事情を背景に、異業種からの参入が相次いでいる。例えば、住友商事は2018年8月、ドローンによる農薬散布・生育監視・播種、水位センサーと通信システムによる遠隔水位をパッケージ化した水稲生育管理システムを提供すると発表した(発表資料)。

国としてはどのような目標を立てているのでしょうか?

ICTやロボット農業によって、超省力でスマートな農業モデルを実現することです。このモデルでは、人材不足解消とコスト削減を両立していきます。では、どうやって人手をかけずに低コストで良質な農作物を育てていくのか。まずは国産ゲノムの編集技術を利用して、育てやすく美味しい画期的な品種を作ります。それをもとにICTやロボット、AIをフル活用した“スマート農業”を確立するのです*2

スマート農業を言い換えると、サイバー空間とフィジカル空間の高度な融合です。これを農業に当てはめるとすれば、作業している農業機械(農機)からさまざまなデータをクラウドへ自動的にアップすることが必要になります。これらは畑の状態、どれだけの肥料をまいたか、水やりの状況といった農業ならではのデータです。

このほかにも役立ちそうなデータがあるのですが、いろんなところに分散しているためにデータを上手く活用できず、そのために農業の効率化が進んでいないといった側面があります。そこで国が率先して農業データ連携基盤を整備しているところです。

写真1 野口教授は、専門である農業ロボット工学の知見を活かし、内閣府による産業創出プログラムの要職を務める

*2 例えば、オプティムはAI・IoT・ドローンを活用した「ピンポイント農薬散布」を実現した。ドローンに搭載したカメラで大豆畑を撮影し、画像解析により害虫による被害位置を特定、その箇所にだけ農薬を散布するというシステムである(発表資料)。
AIを活用する取り組みとしては、九州大学と富士通の共同研究がある。両者は2018年4月、AIにより植物の成長速度や収穫時期などをリアルタイムで予測することを目指した取り組みを始めたことを発表している(発表資料)。

1カ所に集約して、データプラットフォームとして有効利用していくということですね?

その通りです。そのプラットフォームにアクセスすれば、いろいろなデータベースを参照できるようになります。2019年4月から国立研究開発法人の農研機構が本格運用する予定で、農林水産省がその整備に注力しています。これが完成すれば飛躍的に農業データを扱いやすくなり、スマート農業がぐんと近づくはずです。今回のプラットフォームは、データに基づいた農業を実践するための第一歩なのです。

目指すは“農業を知っているロボット”

北海道大学では、既に無人・自動走行のロボットトラクターの実証実験を進めています。

はい。今最も力を入れているのが複数台によるマルチロボットトラクターです。目指しているのは最大4台。1台には人間が乗りますが、残りの3台は無人で自動走行します。4台が相互に通信しながら協調して動く仕組みで、つまり4倍の生産性で畑を耕すことができるわけです。

動画1 ロボットトラクターの解説(出所:日本経済新聞社主催イベント「AG/SUM」の野口氏インタビュー)

そもそも2018年はロボット農機元年と位置づけられていて、クボタ、ヤンマー、井関農機などの大手農機メーカーが自動走行のロボットトラクターなどを次々と発売しています*3。今年のシステムは、そばに人がいて有人監視することが前提となっていますが、2年後の2020年には遠隔監視する次世代型のロボット農機が登場する予定です。

*3 例えばヤンマーは、2018年6月、同社のグループ企業が同年10月に自動運転トラクターを販売開始すると発表している(発表資料)。クボタも同年12月に自動運転による収穫を可能にする「アグリロボコンバイン」を発売する(発表資料)。

協調システムといい、遠隔監視といい、先ほどのデータ収集といい、スマート農業には強力な通信技術が欠かせません。2020年といえば5Gが商用化される年ですが、スマート農業の発展に貢献するのではないでしょうか?

そうですね、大容量かつ低遅延の5Gが大いに活躍すると思います。北海道と違い、本州の大規模農地は1カ所にまとまっておらず、飛び地になって広がっているのが普通です。もし離れた管制室からロボット農機の作業状態を一括監視できるようになれば、今までには想像もできなかったような効率化と省力化につながります。

とはいえ現状の通信システムでは、周辺画像を確認しても解像度が粗い画像しか送ることができず、しかも1~2秒ほどの遅延があります。自動走行では何かトラブルがあったときにすぐに作業を停止しなくてはならないのですが、5Gならばそのリスクも回避できる期待があります。さらに画像が鮮明になることで、どこで病害虫が発生しているかといった生育状態の良し悪しを遠隔から判断できるようになります。

もう1つ、準天頂衛星の「みちびき」*4が2018年11月から本格サービス開始となるので、より高精度な測位が可能になります。特にロボット農機は正確な位置の把握がすべてですから、みちびきによる誤差数センチ以内の測位補強はかなり大きな武器になりますね。

写真2 北大農学部には、自動走行のロボットトラクターを格納する農機具庫がある

*4 2018年11月の本格運用開始に向けて、みちびきによる測位データを活用したシステムの実証実験や開発が進んでいる。農業のほか、自動運転やスポーツ領域への適用にも期待が高まっている(参考記事

仮にこうした技術が確立されれば、これまでまったく農業と関係がなかった人たちの新規参入もあるのではないでしょうか。

そうかもしれません。極端な話、農機のオペレーターは作業の監視役に過ぎず、未経験者でもできるようになるでしょう。それでも作業効率は向上している、と。またロボット農機は24時間作業ができますから、夜間の自動収穫も夢ではありません。

この理想的な手法を現実のものとするためには、工場のようにしっかりとした工程管理ができる仕組みを作っていくことが大事です。もちろん農業ですからハードルは高いのですが、気象情報やプラットフォームのデータを活用しながら“この作業にはどれぐらい時間がかかるのか”といったシミュレーションを行って、ある程度のスケジュールを立ててあげるわけです。これらを進めていかないと、未来の大規模農業を運営していくのには限界があります。

なるほど。ここ数年で日本の農業は劇的に変化しそうですね。

当面の目標としては、農機を取り巻く環境のインテリジェント化が挙げられます。今のロボット農機は高精度な自動走行にとどまっていますが、これからは少しずつ“農業のことを知っているロボット”にしていかなくてはならない。自分で走れるだけではダメで、自律的に判断して肥料をまいたり、農薬を散布したり、除草したり、収穫したりと、人間に近づけていく必要があるわけです。

しかしそこで、農機に高性能なセンサーや解析エンジンを搭載して費用をかけても仕方がないですよね? ならば農機をIoTデバイスとして捉えてデータをどんどん吸い上げ、クラウドで解析すればいいのです。そして解析した結果を農機にフィードバックする。農機は、こちらの意図した通りに動くようになります。

これが農業のスマート化の1つの解だと思っています。そしてそこでも5Gのような強力な通信手段は非常に重要になってきます。どうしても農村部は通信インフラの整備が遅れがちですが、スマート農業の実現に向けて一刻も早い導入を積極的に国に働きかけているところです。

写真3 スマート農業の未来に期待を寄せる野口教授

野口教授によると、日本の取り組みに対しては海外からの注目度が高く、特に中国や韓国、タイなどから積極的なコンタクトがあるという。

海外の市場をみると、ICTを活用した「スマート農業」関連で急成長するスタートアップ企業は少なくない。例えば2011年に創業した米国のFarmLogsは、データサイエンスと機械学習により、農場を「見える化」し、収穫を最大化するための農地管理サービスを提供している。同社によれば、米国の農場の3分の1が同社のサービスを利用しているとする。イスラエルのProspera Technologiesも、コンピュータビジョンとAIを活用した農地管理サービスを提供している。

こうしたスタートアップ企業の動向には大手企業も注目しており、「John Deere」ブランドで知られる農業機械大手Deere&Companyは2017年、コンピュータビジョンとAIを活用することで雑草にのみピンポイントで農薬を散布し、農薬使用量を減らす技術を持つBlue River Technologyを買収している。

5Gの時代においても、スマート農業は重要な応用先の1つである。英国では、同国のデジタル・文化・メディア・スポーツ省が5G技術開発支援コンペを実施、その中にはドローンを使った農業が含まれている*5。5Gと共に、ますます多彩なサービスが登場することに期待したい。

*5 英国政府、5G開発支援コンペでドローン農業やIoTヘルスケアなど6つ選出 (参考記事)

※「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」「docomo 5G DX AWARDS」「ドコモ5Gオープンラボ」「ドコモオープンイノベーションクラウド」は、NTTコミュニケーションズ株式会社の登録商標です。
※「ネットワークカスタマイゼーション」「キャリー5G」「クラウドダイレクト」は、NTTコミュニケーションズ株式会社の商標です。