当面の目標としては、農機を取り巻く環境のインテリジェント化が挙げられます。今のロボット農機は高精度な自動走行にとどまっていますが、これからは少しずつ“農業のことを知っているロボット”にしていかなくてはならない。自分で走れるだけではダメで、自律的に判断して肥料をまいたり、農薬を散布したり、除草したり、収穫したりと、人間に近づけていく必要があるわけです。
しかしそこで、農機に高性能なセンサーや解析エンジンを搭載して費用をかけても仕方がないですよね? ならば農機をIoTデバイスとして捉えてデータをどんどん吸い上げ、クラウドで解析すればいいのです。そして解析した結果を農機にフィードバックする。農機は、こちらの意図した通りに動くようになります。
これが農業のスマート化の1つの解だと思っています。そしてそこでも5Gのような強力な通信手段は非常に重要になってきます。どうしても農村部は通信インフラの整備が遅れがちですが、スマート農業の実現に向けて一刻も早い導入を積極的に国に働きかけているところです。
野口教授によると、日本の取り組みに対しては海外からの注目度が高く、特に中国や韓国、タイなどから積極的なコンタクトがあるという。
海外の市場をみると、ICTを活用した「スマート農業」関連で急成長するスタートアップ企業は少なくない。例えば2011年に創業した米国のFarmLogsは、データサイエンスと機械学習により、農場を「見える化」し、収穫を最大化するための農地管理サービスを提供している。同社によれば、米国の農場の3分の1が同社のサービスを利用しているとする。イスラエルのProspera Technologiesも、コンピュータビジョンとAIを活用した農地管理サービスを提供している。
こうしたスタートアップ企業の動向には大手企業も注目しており、「John Deere」ブランドで知られる農業機械大手Deere&Companyは2017年、コンピュータビジョンとAIを活用することで雑草にのみピンポイントで農薬を散布し、農薬使用量を減らす技術を持つBlue River Technologyを買収している。
5Gの時代においても、スマート農業は重要な応用先の1つである。英国では、同国のデジタル・文化・メディア・スポーツ省が5G技術開発支援コンペを実施、その中にはドローンを使った農業が含まれている*5 。5Gと共に、ますます多彩なサービスが登場することに期待したい。
*5 英国政府、5G開発支援コンペでドローン農業やIoTヘルスケアなど6つ選出 (参考記事 )