ドコモ5Gオープンパートナープログラム

【特別寄稿】世界最大モバイル展示会「MWC19 Los Angeles」後編 「5G×エッジコンピューティング×AI」は今後の5G商用展開のカギ
新たなプレイヤーの参入や
デベロッパーによるユースケース創出が加速

「5G×エッジコンピューティング×AI」は今後の5G商用展開のカギ

オンプレミスエッジとテレコムエッジ(MEC)に高まる期待と可能性

デバイスとクラウドコンピューティングによる集中型のデータ管理と処理が広く利用されるようになった。スマートフォンやIoTデバイスなどあらゆるものが相互につながり、それらから収集されたデータがクラウド上のAIで解析されるだけではなく、再びデバイスやその他のサービスへ反映されることで、新しいビジネスを生み出している。

例えば自動車の自動運転や、工場でのロボットや産業機器の操作など、リアルタイム性が重要な要件となる事例では、車や機器の各種センサーやカメラから大量のデータが送信され、クラウドで処理し、再び車や機器にフィードバックされ操作が実行される。

このようにクラウドを常時利用する事例が増えたことにより、送受信するデータ量の増大や、伝送中の物理的な距離から発生する遅延により満たすべき動作の実行が不十分となることなどが懸念されている。

今後もIoTや5Gの開始で増え続けるデータによるクラウドへの負荷を分散させる必要性は高まっていく。また5Gによる低遅延性を活かしたサービス開発と併せ、その性能を担保した通信の提供という点で提案されているのが分散型のデータの処理を可能にするエッジコンピューティングである。

そもそもエッジコンピューティングと言っても、コンピューティング機能を持たせるエッジポイントは「デバイスエッジ」「オンプレミスエッジ」「テレコムエッジ」「集中型クラウドエッジ/インターネットエッジ」の4つに分類される。

MWC19 LAのVMwareブースに出展していたMobiledgeXによる4つのエッジの整理

デバイスエッジにおいては、Huaweiが2017年にAI機能を搭載したプロセッサ「Kirin」を発表し、自社のスマートフォンなどにAI機能を持たせるというデバイスエッジの強化を行うなどデバイスのプロセッシング能力を日々進化させている。しかしながら、自動運転車両をデバイスと考えた時に個々の車両に高い演算能力を持たせることはコストの面からもベストな解決策とならないのが現実であり、この課題解決のため期待が持たれているのがデバイスとクラウドの間に存在する「オンプレミスエッジ」と「テレコムエッジ(MEC)」である。

5Gの低遅延性を補うもう一つの手段として注目を集める両エッジコンピューティングは、ミッションクリティカル領域をはじめ低遅延性を必要とするサービス実現に向けて、新たな基盤となっていることがMWC19 LAでもうかがえた。以下では、この二つのエッジコンピューティングにおいてMWC19 LAで見られたトピックについて触れていく。

NVIDIAはエッジコンピューター向けのサーバー「EGX Edge Supercomputing Platform」をMWCで発表

MWCの開催前日、NVIDIAはMWCのパートナープログラムで基調講演を行い、エッジコンピューター向けのサーバー「EGX Edge Supercomputing Platform」(以下EGX)を発表。EGXは各種サーバーと、NVIDIAドライバ、Kubernetesプラグイン、NVIDIAコンテナランタイムおよび GPU監視ツールで構成されている「NVIDIA EGX STACK」、データサイエンスおよびAI向けNVIDIA GPU高速化ライブラリ「NVIDIA CUDA-X」などが統合して提供されるもの。クラウドゲーミングやAR、イメージプロセッシング、センサープロセッシング、AIなどエッジで実行されるものに最適化される。Red Hatとの提携の他、Atos、Dell Technologies、富士通、HPE、Lenovo、QCT、Supermicro、Cisco、Microsoft、VMwareの同製品のサポートも発表された。またWalmart、BMW、Procter & Gamble、Samsung Electronics 、NTT 東日本、サンフランシスコやラスベガスといった都市が、このプラットフォームの初期導入企業になるという。

▲MWCの開催前日に行われたパートナープログラムでのNVIDIA基調講演(画像:NVIDIA)

NVIDIAによると「大規模にAIワークロードを展開している企業は、オンプレミスのデータセンターとクラウドを組み合わせて使い、データの収集場所に AI モデルを適用させている」とのこと。今後AI、IoT、5Gにより、企業がデータセンターではなくエッジ上で収集データを活用したリアルタイムの意思決定を行う上で、ITの専門知識が不足する業種においても、エッジでのワークロード展開を可能にするソリューションとして同プラットフォームは期待できるとしている。

ブースでは、NVIDIA T4 GPUを搭載したエッジサーバー実機と同プラットフォーム上のレファレンスアプリケーション「NVIDIA Metropolis」も併せて紹介された。Metropolisはインテリジェントなビデオ分析機能を備えており、同アプリケーションを活用したスマートシティの事例では10x16=160個の動画から自動車などのオブジェクトをリアルタイムで認識するデモを行っていた。スマートリテールソリューションでは来客が手に取った商品をリアルタイムに処理し店舗の無レジ化ソリューションを提供するAIFI、重量検知器とカメラを組み合わせ、半透明のポリ袋に入った商品までも解析できるMalong、ヒートマップなどより来店客の行動や嗜好などのインサイトを抽出するanyvisionなどがソリューションとして紹介。その他EXGサーバーとAIソリューションを組み合わせたPostmatesの無人配送車なども展示されていた。

▲ブースでデモが行われていたスマートリテールソリューション
無レジ化ソリューションを提供するAIFI(左)と
重量検知器に物体認識機能を組み合わせたソリューションを提供するMalong(右)

NVIDIAはEricssonとの提携も発表している。通信事業者が高性能で効率的かつ完全に仮想化された5G無線アクセスネットワーク(RAN)を構築できる技術で協力するとした。両社のリリースによると、最終的な目標は仮想化されたRANテクノロジーをパッケージ化し、AR、VR、ゲームなどの新しいサービスの柔軟性と短期間での無線ネットワークの提供を実現することだとしている。

テレコムエッジ(MEC)を活用したユースケースの創出

通信事業者がすでに構築している数万という基地局にエッジコンピューティングを設置することで、クラウドを経由するよりも遅延の少ないレスポンスを可能にすることができる。通信事業者が所有するすべての基地局にエッジコンピューティングを展開することは現実的に困難ではあるものの、新規に事業を開始する楽天は仮想化されたネットワークを構築するとしており、当初から仮想化されたRANの全国4000ヵ所以上にMEC環境を構築する計画を明かしている。

MEC環境の構築と両輪で企業が開発を進めるのがMECを活用したアプリケーションだ。Deutsche Telecomの子会社でエッジコンピューティングに特化した企業MobiledgeXはMWC19 LAのVMwareブースで展示卓を構え、同社のエッジプラットフォームを活用するforwARdgame社のAR上でのエアホッケーゲーム「SCOAAR」をデモや同社のプラットフォームの説明を行っていた。

MEC環境の構築と両輪で企業が開発を進めるのがMECを活用したアプリケーションだ。Deutsche Telecomの子会社でエッジコンピューティングに特化した企業MobiledgeXはMWC19 LAのVMwareブースで展示卓を構え、同社のエッジプラットフォームを活用するforwARdgame社のAR上でのエアホッケーゲーム「SCOAAR」をデモや同社のプラットフォームの説明を行っていた。

▶VMwareブースでのforwARdgame社のARエアホッケーゲーム「SCOAAR」のデモ(右)

▲VMwareブースでのforwARdgame社のARエアホッケーゲーム「SCOAAR」のデモ

MobiledgeXは次世代のアプリケーションとデバイスを強化するエッジリソースとサービスのマーケットプレイスの作成を目的としている。DTのスピンアウトとして設立された背景には3つのポイントがある。1つはエッジコンピューティングがモバイルオペレーター全体のモバイルデータアプリケーションへの関与を高められる可能性があること。2つ目はARなど複数のモバイルオペレーターとの協業が必要であること。そして3つ目はグローバルなコラボレーションによるメリットが高められることだ。

MobiledgeXはエッジによる新たなエクスペリエンスとして、モバイルデータの効率化、ロケーション検証や不正利用検知によるIoTセキュリティ、地理空間認識によるマルチプレーヤーモバイルゲーミング、ドローンなどの多数デバイスのコントロール、コンプライアンスやプライバシーといったユースケースを挙げている。同社はエッジインフラストラクチャを活用したアプリケーション開発のためのハッカソンを積極的に行っており、4月にシリコンバレーで開催されたTIP EAD、8月に韓国で開催されたSK Telecom、9月にロンドンで開催されたEdge Compute Congressとの共同ハッカソンに続き、最初の「Edge Experience Hackathon」をポーランドで開催。ポーランドで最初の5Gネットワークに加えて、15台のSamsung Galaxy S10 +デバイスとVuzix Blade ARグラスが開発環境として提供されている。

エッジコンピューティングがテレコムオペレーターの聖域を脅かす

このようにMWC19 LAではエッジコンピューティングが大きなトピックとなっており、NVIDAが大々的な発表を行うなど、これまでテレコムオペレーターの領域であったネットワークビジネスの一部に進出を図ろうとしている。またEricssonなど従来はオペレーターのビジネスを支えてきたインフラベンダーもIT企業などとの協業を積極的に進めている。

通信ネットワークの仮想化とエッジコンピューティングの普及はIaas、NaaSの展開を加速化させ、通信オペレーターが守ってきたビジネスの境界線を無くそうとしている。

通信事業者・民間・政府で共用されるCBRSの商用化がスタート

その他MWC19 LA会場の各所で見聞きしたのが9月に初期商用展開がアナウンスされたCBRS(Citizens Broadband Radio Service)だ。CBRS Alliance によって認定された製品や企業30社が「OnGo」ブランドとして会場内のパビリオンで紹介され、富士通や日本通信の子会社であるContour Networksなどもブース出展していた。

▲CBRS Allianceの「OnGo」パビリオンブース

CBRSは3.5GHz帯を官民で共用するもので、政府(海軍)が使用する「Incumbent Access」、免許が必要となる「PAL(Priority Access License)」、免許不要な「GAA(General Authorized Access)の3層で構成。スペクトラムシェアリングを活用し運用される他、通信事業者・企業共に利用できるのが大きな特徴だ。

通信事業者にとってはルーラルエリアなどの展開において、スモールセルでカバレッジを拡大することに比べ投資コストが抑えられるなどのメリットがあるといい、企業は自社のプライベートネットワーク構築に活用することが可能となる。CBRSはLTEでのスタートとなるが、今後5Gへの移行も想定されている。各国プライベートネットワーク展開のアプローチは異なるが、スペクトラムシェアリングによる運用という点やプライベートネットワーク上でのサービス開発など、米国ならではの動向として引き続き注目したい。

MECプラットフォーマーとしての商機

世界的に5Gの商用化が始まり、スマートフォンと回線という初期展開のスタート地点には辿り着いたものの、通信事業者は5Gインフラ構築にかかる投資の回収を見込めるサービスやキラーアプリを見つけられていない、というのが「MWC19 Los Angeles」の会場でも変わらず聞かれた実際である。「ネットワークの拡大と普及がありサービスが創出される」、「革新的なサービスがあってネットワークが普及する」というこのジレンマは抱えつつも、産業変革の重要なインフラとなる5Gという流れはもはや不可逆的なものだ。

通信事業者はもちろんのことあらゆるプレイヤーが「5G×エッジコンピューティング×AI(×プライベートネットワーク)」というモデルでビジネスを創出しようと試みているのが感じられた。NVIDIAといったベンダーやエッジコンピューティング上の新たなプラットフォーマーが活発な動きを見せ、当然IT企業も新たなビジネスの場として参入している。通信事業者は既存のインフラを最大限に活用し、MECというサービスに加え、プラットフォーマーとなる新たなビジネスを構築できるか、または通信事業以外から参入する企業が再びMECプラットフォームを侵食するのか、エッジ市場はまだ黎明期でもあり今後の動向が注目される。

室屋 秀樹(むろや ひでき)氏

シニアアナリスト

室屋 秀樹(むろや ひでき)氏

室屋 秀樹(むろや ひでき)氏

シニアアナリスト

株式会社ピイ.ピイ.コミュニケーションズ 代表取締役
通信やIT業界に関する深い知識と洞察力、国内海外の人的ネットワークを持つシニアアナリスト。スマートエネルギー、IoT、バイオなど技術要素を含む分野でのマーケティングプランニング、分析、ビジネスモデル開発に注力。当社発行のアナリストレポートではチーフエディターとして年間10回程度の海外展示会視察をこなす。
また、Apple、コンパック(現在HP)、DELL、ゲートウェイなどの日本法人設立、マーケティング部署設立にコンサルタントとして従事。

【略歴】

商社、マーケティングコンサルファーム、外資系IT企業の日本法人立ち上げ支援業務を経て、1990年ピイ.ピイ.コミュニケーションズを設立

※「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」「docomo 5G DX AWARDS」「ドコモ5Gオープンラボ」「ドコモオープンイノベーションクラウド」は、株式会社NTTドコモの登録商標です。
※「ネットワークカスタマイゼーション」「キャリー5G」「クラウドダイレクト」は、株式会社NTTドコモの商標です。